2026.8.8

経営者がコーチングを理解するべき理由|認知領域の重要性

現代の経営者にとって、コーチングは外せない課題となっています。「経営者向けコーチング 活用実態調査2025」によると、コーチングという言葉を知っている経営者は6割に達し、経験者の43%が「投資額の7倍以上の価値」と評価しています。[11]

コーチングの創始者と言われるルー・タイスのプログラムは、NASA、米国国防総省を始めとした政府機関の他、フォーチュン500の62%が採用したと言われています。ルー・タイス自身はトップエグゼクティブにコーチングを行っていました。[3]

世界的な潮流からしても、コーチングが経営において無視できないテーマだと言えるでしょう。しかし、コーチング業界がビジネスとして成功したことで、多くの事業者が参入して玉石混交な状況に見えます。

本稿では、コーチングの本質に立ち戻った上で、経営者がコーチングを理解するべき理由を整理します。

コーチングの本質とは何か

「⚪︎⚪︎コーチング」という名を冠したサービスは数多くあります。ライフコーチング、英語コーチング、メンタルコーチング。ビジネスに近い領域だと、キャリアコーチング、ビジネスコーチング、エグゼクティブコーチングなどがあります。

また、マネジメント研修やコミュニケーション研修、組織変革サービスに付随してコーチングが扱われる例も少なくないようです。

人間の認知を扱うコーチングは無形のサービスであり、汎用性も高いことから様々な派生サービスが出てくることは自然です。その一方で、コーチングの本質は何かを正確に理解できていない方も散見されます。

コーチングの本質は、ゴールとゴールの設定です。そして、エフィカシーを上げることがコーチの役割です。この大原則を押さえておきましょう。詳細は『コーチングとは何か―ゴールとエフィカシーから理解する本質』に譲ります。[1]

何のために、どこを目指すのか

経営には必ずゴールがあるはずです。コーポレート・コーチングにおいては、「コーポレートゴール」と呼びます。近しい意味で、ミッション、ビジョン、パーパスといった言葉がよく使われます。[4][5]

ある会社は株主利益最大化をゴールとしているでしょう。また、ある会社は顧客の問題を解決することや、社会貢献を目的としているかもしれません。ゴールが異なれば、あるべき経営の姿は大きく異なります。

コーチングではゴール良し悪しについて判断しませんが、いずれにしてもゴールが設定されていなかったり、形骸化していては経営方針も定まりません。経営の出発点はコーチングにあると言っても過言ではないでしょう。

競争優位性の源泉

競争優位性という観点からもコーチングは極めて重要です。野中郁次郎教授の「知識創造理論」が世界的に評価されたことからも分かるとおり、現代は高度な知識社会であり競争優位性は知的活動にあります。[7]

日本においても人的資本経営の潮流は強まっており、モチベーションやエンゲージメントをいかに高めるかといった観点は経営者の常識になりつつあります。

実は、コーチングは知識創造やエンゲージメント、モチベーションの開発に非常に有効です。人間の認知領域に働きかける科学的手法がコーチングなので当然と言えば当然です。正統なコーチングは人間の「創造性(クリエイティビティ)」を引き出します。心から望むゴールに向かう組織はエンゲージメントもモチベーションも高くなります。[4][5]

コアーシブなカルチャーの組織とコーチング的なカルチャーの組織とでは、5年間で売上に2倍、利益では756倍の差があるという調査報告もあるほどです。[4][5]

具体的なコーチングの技術やコーポレート・コーチングについては本稿の範囲を逸脱するため他に譲りますが、コーチングが経営において重要であるという点はご理解いただけたのではないでしょうか。

安全保障の潮流

経営にコーチングが導入される流れは、軍事技術の民生転用の歴史を押さえるとより正確に理解できます。

一昔前には「IT企業」という言葉がありました。コンピュータやインターネットを駆使してイノベーションを起こした新興企業が活躍した時代です。既存の業界の販路をオンライン化しただけで勃興した企業もありました。

しかし、現代はどうでしょう。もはやコンピュータやインターネットを使わない企業を探す方が難しい時代です。コンピュータやインターネットが元々は軍事技術だったことはご存知の方が多いと思います。

コーチングの理論基盤となっている認知科学や苫米地理論は、アメリカの軍事予算が投入された人工知能プロジェクトに端を発しています。ルー・タイスのプログラムにしても特殊部隊の隊員や軍人がミッション遂行のために取り入れたものです。[1][3]

2026年の4月には米国国防拠点大学で「認知戦(Cognitive Warfare)」に関する講義が行われ論文が発表されました。世界の安全保障において、人間の認知に介入する技術は現実のものとして扱われているのです。[8]

この流れを押さえると、軍事レベルで研究されてきた認知技術の一部が民生転用されたコーチングが経営に広がる必然性がより理解できるでしょう。

リーダーの認知経営

コーポレート・コーチングにおいて、厳しい現実をお伝えしなければなりません。それは、リーダーである経営者自身の認知が最も重要だという点です。

ある金融機関の支店長がこんな事を言っていました。

「社長のマインドが変わらないと事業は上手くいかない。でも変えることは難しいから最後は喧嘩になってでもぶつかっている。」

組織開発や人的資本経営を考える時、自分自身の認知を経営課題として認識できる人は意外と少ないものです。経営者や組織のリーダーからすると、耳の痛い話かもしれません。

ただ、これは可能性の裏返しでもあります。経営者自身がゴールを更新し、コーチングマインドを身につければ自分自身の創造性も飛躍的に高まります。マインドが変われば、もっと大きな事を達成できるのです。[4][5]

経営におけるコーチングの重要性を認識されたリーダーの皆様は、自身の認知という最大の経営資源についても重点投資領域として扱って頂きたいと思います。

まとめ|近未来の経営

経営の神様と呼ばれたPanasonic創業者の松下幸之助氏は、高学歴な新入社員が集まる入社式でこんな問いかけをしたそうです。

「君たちは大学で人間について研究しましたか」

プロのコーチである私には、経営の真髄は「人間の認知」にあると言っているように聞こえます。

顧客の心を掴めば売上には困らないでしょう。社員の心を掴めば組織運営は成功します。株主や取引先の心を掴めばより良い経営環境を整えることができます。そして、自身の心を掴めば経営はどこまでも伸びていくでしょう。

世界最大の軍事大国であるアメリカで研究された認知科学は、経営の神様が体得していた人間の心を科学的に教えてくれます。近い将来、民生転用されたマインドの知見が経営の景色を一変させていくでしょう。

本稿が、経営におけるコーチングの重要性を理解する一助となれば幸いです。

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筆者

後藤 大輔

保有資格(一部)

苫米地式コーチング認定アソシエイトコーチ特任マスターコーチ

苫米地テオレム認定プリンシパルエバンジェリスト(Principal-TTCE)

略歴

2009年に苫米地博士の本に出会い、現在に至るまで継続的に学び続けている。教育・福祉領域の社会起業家として活動する中で、社会変革領域における苫米地理論とコーチングの重要性を確信。同理論を社会変革に応用することをライフワークとしている。

参考文献・出典

書籍

[1] 苫米地英人『オーセンティック・コーチング2026――本物のコーチング』開拓社、2025年12月。ISBN 978-4-7589-7029-7。

[2] 苫米地英人『新版 コンフォートゾーンの作り方』フォレスト出版、2026年1月。ISBN 978-4-86680-350-0。

[3] ルー・タイス著、田口未和訳、苫米地英人監修『アファメーション――人生を変える!伝説のコーチの言葉と5つの法則』フォレスト出版、2011年12月。原タイトル:Smart Talk。ISBN 978-4-89451-473-7。

[4] 苫米地英人『コーポレートコーチング(上)――利益を756倍にした驚くべき組織改革術』開拓社、2015年6月。ISBN 978-4-7589-7011-2。

[5] 苫米地英人『コーポレートコーチング(下)――利益を756倍にした驚くべきリーダー論』開拓社、2016年7月。ISBN 978-4-7589-7012-9。

[6] 苫米地英人『自衛隊認知戦軍創設提案――戦略的影響力のパラダイムシフト』開拓社、2025年10月。ISBN 978-4-7589-7027-3。

[7] 野中郁次郎・竹内弘高著、梅本勝博訳『知識創造企業(新装版)』東洋経済新報社、2020年12月。原タイトル:The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation。ISBN 978-4-492-52232-5。

論文・公開資料

[8] 苫米地英人「潜在ポテンシャル統一理論:認知ホメオスタシスと認知戦――物理・社会・AIシステムにおける認知制御の数理基盤に向けて」2026年4月4日、最終更新2026年5月3日。2026年4月21日米国防大学講義配布論文(民間向け修正済み和訳版)。
https://tomabechi.jp/TomabechiNDUpaperJApublic.pdf
(閲覧日:2026年8月15日)

[9] 苫米地英人「苫米地未来原点認知時間理論(6定理版)――認知物理学のための最小苫米地定理体系」Cognitive Research Laboratories、2026年。
https://tomabechi.jp/TomabechiTimeTheoryMin6JA.html
(閲覧日:2026年8月15日)

[10] 苫米地英人「苫米地進化論(5定理版)――認知ホメオスタシスから象徴文化と進化へ」Cognitive Research Laboratories/CyLab, Carnegie Mellon University/C5I Center, George Mason University、2026年6月19日、最終更新2026年6月28日。
https://tomabechi.jp/TomabechiEvolution5theoremsJA.html
(閲覧日:2026年8月15日)

調査・ウェブ資料

[11] 野中祥平「(調査)経営者向けコーチング、認知度60%/経験者の43%が『投資対効果7倍以上』、体験談や課題起点での導入が主流」株式会社NonaCanvas、2025年10月6日、同日更新。
https://nonacanvas.co.jp/blogdetail/ExecutiveCoachingSurvey2025
(閲覧日:2026年8月16日)